「ケモタイプって何? 成分分析している精油のこと?」
さて、皆さんは「ケモタイプ」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? アロマテラピーの楽しさを知り、いろいろと情報を集めるうちに耳にする人が多いようです。
「ケモタイプ」はむずかしい言葉ではないのですが、その意味に関してはかなり誤解されて広まっているようです。ここで正しい意味をしっかりと理解しておきましょう。
精油のケモタイプとは
エッセンシャルオイル(精油)は植物を原料とします。そして植物の成長には、その土地の土壌や水、太陽、空気などが大きく影響します。
これはお米やワインなどを想像して頂ければ分かりやすいと思いますが、同じコシヒカリでも産地によって味は若干異なりますし、同じカベルネ・ソーヴィニヨンのワインでもフランス産とチリ産では味が異なります。もちろん同じ品種ですから、多少の違いはあっても、全体的には似た雰囲気の味(成分)があります。
ところが、植物によっては「劇的に」成分が変わり、いわば別の種(しゅ)のような植物として成長することがあります。見かけは同じでも、土壌や水、太陽の違いによって味や香りがまったく変わってしまうことがあるわけです。
このように、植物学的に同種の植物にもかかわらず、育った環境の違いによって著しく成分構成の異なるものをケモタイプ(Chemotypes、化学種)と呼びます。例えば「ローズマリーにはいくつかのケモタイプがある」というような言い方をします。
ケモタイプのある精油
ケモタイプで注意しなければならないのは、これが同一学名の植物の場合にのみ存在するということです。 例えば、ユーカリには、ユーカリ・グロブルス(Eucalyptus globulus)、ユーカリ・ラディアータ(Eucalyptus radiata)、ユーカリ・シトリオドラ(Eucalyptus citriodora)などがありますが、これらは種類が異なりますのでケモタイプとは呼びません。
アロマテラピーで使われる一般的な精油でケモタイプのあるものは少なく、ローズマリー(Rosmarinus officinalis)、タイム(Thymus vulgaris)、バジル(Ocimum basilicum)などが有名です。
ケモタイプの表記方法
例えば、ローズマリー(Rosmarinus officinalis)には、成分としてカンファーを多く含むもの、シネオールを多く含むもの、ベルベノンを多く含むものなどがあります。 ケモタイプを正しく識別するには、ct.という略号を使用し、その後に特定のケモタイプを構成する化学成分を記述します。
- Rosmarinus officinalis ct. camphor :カンファーの含有量が多い
- Rosmarinus officinalis ct. cineole :1,8シネオールの含有量が多い
- Rosmarinus officinalis ct. verbenone :ベルベノンやピネンの含有量が多い
バジルには、リナロールを多く含むものと、メチルカビコールを多く含むものがあります。
タイムにはさらに多く(6~7種)のケモタイプが確認されていますが、チモールを多く含むものと、リナロールを多く含むものがよく利用されます。
その他、ティートリー、ニアウリなどにもケモタイプがありますが、アロマテラピーで話題になることはありません。
「ケモタイプ精油って何?」ケモタイプをめぐる誤解
上記のようにケモタイプの意味は明確なのですが、ちまたでは「ケモタイプ精油」なる特別な精油が存在するかのような誤解が一部にあるようです。「成分分析をした精油」、「品質の高い精油」といった意味合いが込められているようですが、なぜなのでしょうか?
これは、「ケモタイプ精油」という言葉を商標登録し、成分分析していることを売り文句に精油を販売している事業者があることが原因と思われます。
成分分析というのは精油の信頼性を高めるために多くのメーカーが行っていますが、そもそもケモタイプのある精油はローズマリーやタイムなど数種類しかありませんし、その違いは成分構成の違いであって精油の品質とは関係がありません。にもかかわらず、成分分析をした精油すべてをまとめて「ケモタイプ精油」と呼ぶことには違和感があります。
一部の事業者のマーケティング手法によって本来の言葉の意味がゆがめられてしまうのは、アロマテラピーの健全な発展のためにはマイナスですし、あまり好ましいことではありません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
「ケモタイプ」とは、植物学的に同種の植物でも、育った環境によって成分構成が著しく異なるものを指します。一部のエッセンシャルオイル(例えばローズマリーやタイムなど)にのみケモタイプが存在し、それぞれ香りも異なります。
ケモタイプは、成分分析をした精油や、品質の高い精油のことではありませんので、誤解のないように注意しましょう。