猫にアロマは安全?それとも危険?科学的な見地からお答えします

猫とアロマ
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「アロマの香りはリラックス効果があるけれど、猫にも使って大丈夫?」
「猫がいる部屋でディフューザーを使っても問題ない?」

愛猫と暮らす中で、アロマテラピーの安全性について不安に思ったことはありませんか?
アロマオイル(精油)にはリラックスや抗菌などたくさんのメリットがありますが、猫にとっては思わぬ危険が潜んでいることも!

この記事では、猫とアロマの関係について科学的な根拠に基づいて解説し、さらに安全な使い方についても考えていきたいと思います。ぜひ、最後までお読みください!

目次

猫にアロマは安全なの?

猫とアロマ

ズバリ、猫にアロマは安全なのでしょうか? 

結論から言いますと、猫に対してアロマテラピーはおすすめできません。その理由は、多くのアロマオイル(精油)は猫の体にとって負担が大きく、リスクが大きいからです。実際、精油による中毒症例も複数報告されています。

では、なぜ猫にとってアロマが危険なのでしょうか? また、どのような種類の精油が危険なのでしょうか? 学術誌などに掲載された研究論文データをもとに解説していきましょう。

以下は、参考にした文献です。

参考文献
  1. C D van Beusekom et al. (2014). Comparing the glucuronidation capacity of the feline liver with substrate-specific glucuronidation in dogs
  2. D Villar et al. (1994) Toxicity of melaleuca oil and related essential oils applied topically on dogs and cats
  3. K. Bischoff, Fessesswork Guale (1998) Australian tea tree (Melaleuca alternifolia) oil poisoning in three purebred cats
  4. Umut Burak AĞAN et al. (2021) The hidden potential of herbal remedies and neutraceuticals in canine and feline behavioural disorders
  5. Štrbac et al. (2021) Possibilities and limitations of the use of essential oils in dogs and cats
  6. Natarajan Sisubalan et al. (2023) Composition, bioactivities, safety concerns, and impact of essential oil on pets’ and animals’ health

猫にアロマをおすすめしない理由

アロマテラピーと猫

猫と犬の体は違う? 精油を分解できない猫の肝機能

猫がアロマオイル(精油)を安全に分解できない理由の一つは、その肝機能にあります。特に、UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT) という酵素が猫には非常に少なく、この酵素が担っている「グルクロン酸抱合」と呼ばれるプロセスがほぼ機能しません​。

難しい言葉ですが、「グルクロン酸抱合」とはいったい何でしょうか?

「グルクロン酸抱合」とは、体内に取り込まれた有害な物質を水溶性に変換し、尿や胆汁としてからだの外に排出するという重要な代謝経路です。俗にいう「解毒(げどく)」のプロセスですね。

しかし、猫はこの能力が低いため、アロマオイル(精油)の中に含まれるフェノール類、モノテルペン、セスキテルペンなどの成分を適切に分解・排出することができず、体内に蓄積してしまいます​。その結果、神経系の異常(ふらつき・痙攣)、低体温、肝障害などの中毒症状を引き起こすリスクが高くなるのです。

ちなみに、犬や人には、このようなリスクはあまりありません。ただ、完全肉食動物であるネコ科の動物には、植物の毒性を解毒するための酵素が不足(または欠如)しているため、このような危険性が生じるわけです。この肝機能の違いは、犬と猫の大きな違いと言えるでしょう。

猫の体は小さく、精油の影響を受けやすい

また、猫は犬よりも体重が軽く、体内の水分量や脂肪分布も異なります。そのため、同じ濃度の精油を使用しても血中濃度が急激に上昇し、影響が強く出やすいという特徴があります。さらに、猫は体表面積が小さいため、皮膚に付着した成分の吸収率も相対的に高くなり、よりリスクが大きくなります​。

実際に起こった、猫とアロマの危険な事例

アロマと猫

猫に対するアロマテラピーについては、実際に危険な中毒症状が出たケースもありますので、以下にいくつか紹介します。

ティーツリーによる急性中毒(アメリカ)

飼い主が猫の皮膚トラブル改善のため、ティーツリーオイルを数滴皮膚に直接塗布。数時間後、猫はふらつき、筋肉の震え、沈うつ状態を示し、動物病院へ搬送。血液検査では肝酵素(ALT, AST)の著しい上昇が確認され、急性肝障害と診断された。治療のため点滴と解毒剤が投与され、数日後に回復した​。

ティーツリーのディフューザー使用による中毒(オーストラリア)

室内でティーツリーオイル入りのディフューザーを使用。翌朝、猫が食欲不振、無気力、歩行異常を示し、病院へ。血液検査では肝機能の低下が確認され、点滴と解毒治療が行われた。獣医師によると、ディフューザーから放出された成分を吸入するだけでも中毒症状が起こる可能性があるとのこと。

ユーカリのディフューザー使用による中毒(イギリス)

室内でユーカリオイルを含むアロマディフューザーを使用したところ、数時間後に猫が嘔吐、興奮状態、歩行のふらつきを示した。病院での検査の結果、ユーカリオイルに含まれる 1,8-シネオールが原因である可能性が高いと判断され、酸素吸入と解毒治療が行われた。幸いにも猫は回復したが、獣医師は「閉鎖空間での精油使用は猫に深刻な影響を与える可能性がある」と警告した​。

柑橘系精油による皮膚炎(日本)

飼い主が柑橘系の香りがするアロマスプレーを猫の寝床に使用。翌日、猫の顔周辺の毛が抜け落ち、皮膚が赤く炎症を起こしていた。動物病院の診察では、リモネンによる接触性皮膚炎と診断され、抗炎症薬が処方された。獣医師は「柑橘系の精油は猫の皮膚に直接影響を与えることがあるため、絶対に避けるべき」と説明した​。

ラベンダー吸入による神経症状(カナダ)

ラベンダーの香りを好む飼い主が、猫のリラックス効果を期待して枕元でラベンダーオイルを焚いた。翌朝、猫は興奮状態になり、過剰なグルーミングや異常行動(部屋中を走り回るなど)を示すようになった。病院では中枢神経系の刺激による異常行動と診断され、治療のためアロマの使用を中止。数日後、症状は自然に改善したが、獣医師は「猫にとって心地よい香りとは限らない」と指摘した​。


猫にとって危険なアロマオイル(精油)は?

オレンジオイル

具体的に、猫にとって、どのようなアロマオイル(精油)が危険なのでしょうか?

フェノール類、モノテルペン、セスキテルペンを多く含む精油は、猫の肝臓で分解できないため、特に避けるべきとされています​。過去の研究結果から、猫に危険な精油を一覧にしましたので参考にしてください。

猫にとって危険なアロマオイル(精油)一覧

精油名主な有害成分主な中毒症状
ティーツリー (Melaleuca alternifolia)テルピネン-4-オール、1,8-シネオールふらつき、筋肉の震え、低体温、肝障害
ユーカリ (Eucalyptus globulus)1,8-シネオール嘔吐、ふらつき、興奮、神経症状
シナモン (Cinnamomum zeylanicum)シンナムアルデヒド嘔吐、下痢、肝障害、口腔内潰瘍
クローブ (Syzygium aromaticum)オイゲノール肝障害、血液異常、嘔吐
柑橘系(オレンジ・レモン・ライムなど)リモネン皮膚炎、神経症状、肝障害
ペパーミント (Mentha piperita)メントール呼吸困難、神経症状
ラベンダー (Lavandula angustifolia)リナロール興奮、過剰グルーミング、無気力
赤字は特に注意が必要

ティーツリー(ティートリー)には特に注意!

リストの中で、特に注意したいのがティーツリーです。

ティーツリーはアロマテラピーでも非常に人気のある精油のひとつで、スキンケアや消毒などで使用されることも多いのですが、猫にとってはもっとも危険な精油です。

ティーツリーオイルには強力な抗菌・抗ウイルス作用がありますが、その成分であるテルピネン-4-オール、1,8-シネオールは猫にとって代謝が難しく、皮膚や口から吸収されると体内に蓄積し、少量でも深刻な中毒症状を引き起こす場合があります。そのため、猫がいる環境ではディフューザーの使用も避けるべきです。

意外と盲点! 猫が間接的に精油に触れるリスク

猫にアロマオイル(精油)を直接使用しなくても、意外なところで精油に触れてしまうことがあります。

例えば、ハンドクリームやボディローション、ヘアオイルなどには精油が含まれていることがあり、猫が飼い主を舐めることで口から精油を摂取してしまう可能性があります。特に、ティーツリーやラベンダーを含む製品には注意が必要です。

また、掃除用のスプレーや洗剤には精油が含まれることがあり、猫が床を舐めることで摂取してしまうことがあります。特に天然成分をうたった製品は盲点になりやすいので注意しましょう。

マイナスばかりではない? 猫にアロマテラピーが効果を示した例

これまで、猫とアロマのマイナスの側面についてみてきました。しかし、研究では猫に対してアロマが効果を示した例も報告されています

公平を期す意味でも、ここで、猫に対してアロマが効果を発揮した事例をいくつか紹介しておきます。

研究で報告された、猫に対するアロマの効果

ラベンダーによるリラックス効果

ある研究では、動物病院に訪れた猫に対し、ラベンダーの香りを微量に拡散したところ、猫のストレス行動(過剰な毛づくろいや落ち着きのなさ)が軽減されたと報告されています。ただし、この研究では濃度を極めて低く保つことが重要であると指摘されています​。

アロマを用いた殺菌効果(ティーツリー・タイム・オレガノ)

皮膚感染症の原因となるマラセチア菌や白癬菌に対して、精油(特にティーツリー、タイム、オレガノ)が強い抗菌・抗真菌作用を示したという研究結果があります。これを利用した猫用シャンプーの開発も進められていますが、猫の皮膚への影響や肝機能への負担が考慮されておらず、家庭での使用は推奨されていません​。

ローズマリーやユーカリの抗寄生虫効果

一部の研究では、ノミやダニに対する天然の忌避剤として、ローズマリーやユーカリの成分を活用する試みがなされています。これらの精油には寄生虫の活動を抑える作用があるとされていますが、猫の体に安全かどうかは明確にされていません​。

シトロネラを用いたストレス軽減の可能性

シトロネラオイルを極めて低濃度で使用した実験では、一部の猫でストレスホルモン(コルチゾール)の減少が確認されたという報告があります。

上記の研究結果はごく限られた条件下のもので、長期的な安全性や副作用についてはほとんど検証されていません。猫の肝機能を考慮すると、一般家庭での安易な使用については慎重に考えたほうが良いでしょう。

猫と安全にアロマを楽しむために

アロマでリラックスするネコ

「それでも、猫と一緒にアロマを楽しみたい」、「猫がいても安全な方法はないのか?」と考える飼い主様も多くいらっしゃると思います。

そこで、次からは、猫の健康を守りながらアロマを楽しむためのポイントについて解説していきます。

猫と安全にアロマを楽しむために、どのような点に気をつけたら良いのでしょうか? まず、できるだけ安全なアロマオイル(精油)を使用すること、そして、少量・低濃度にするなど使い方に気をつけること、の2点が重要になります。

以下、順番に見ていきましょう。

猫に比較的安全とされるアロマオイル(精油)

過去の研究データでは、以下の精油が猫に対して比較的影響が少ないとされています。

精油名主な成分注意点
フランキンセンス (Boswellia carterii)モノテルペン、セスキテルペン香りが穏やかで、猫が嫌がりにくいとされるが、使用は最小限に
ローズ (Rosa damascena)フェニルエチルアルコール、ゲラニオール低濃度であればリラックス作用が期待できるが、猫の反応を観察する必要あり
カモミール・ローマン (Chamaemelum nobile)エステル類(アンゲリカ酸イソブチル)鎮静効果があるとされるが、極めて低濃度に限る
バレリアン (Valeriana officinalis)セスキテルペン、バレポトリエイト猫のストレス軽減に使われることがあるが、刺激が強い場合もあるため注意
ネロリ (Citrus aurantium)リナロール、ネリルアセテート比較的穏やかな香りだが、柑橘系由来のため、過信は禁物

これらの精油も「安全である」と科学的に確定したわけではありません。猫の個体差によっても反応は異なります。そのため、猫が嫌がる素振りを見せたらすぐに使用を中止することが大切です。

猫とアロマを楽しむ上での注意点

猫の皮膚への塗布は絶対に避ける

  • 猫は体重も少なく、皮膚も敏感で精油が吸収されやすいため、直接の塗布は厳禁
  • 飼い主が精油を含むスキンケア製品を使う場合は、猫が舐めないように注意する

ディフューザーの使用は控えめに

  • 密閉された部屋でのディフューザー使用は避け、猫が自由に移動できる環境を確保する
  • 長時間焚くのではなく、短時間(10~15分程度)にとどめる
  • 猫が嫌がる素振りを見せたらすぐに使用を中止する

猫の寝床や食事周りでは使用しない

  • 猫は嗅覚が敏感なため、寝床や食事周辺にアロマの香りが広がると強いストレスになる可能性がある
  • リラックス効果を期待するなら、安全な精油を控えめに使用する程度にとどめる

猫がいる空間で掃除用アロマを使う際の注意

  • 市販の掃除用スプレーや洗剤にも猫に有害な精油が含まれていることがある
  • 成分をしっかり確認し、猫が舐める可能性のある床や家具には使用しない

おわりに

いかがでしたでしょうか?

アロマオイル(精油)は、猫の体内で分解しにくく、中毒を引き起こすリスクが高いため、基本的にはアロマの使用をおすすめできません。それでも猫と一緒にアロマを楽しみたい場合は、危険な精油を避け、低濃度で慎重に使用し、すぐに猫が逃げられる環境を確保しましょう。何よりも、異変を感じたらすぐに使用を中止することが大切です。

大切な猫と安心して暮らせるよう、この記事が参考になりましたら幸いです。

著者プロフィール
元AEAJアロマテラピーインストラクター。エッセンシャルオイルの貿易実務に20年以上たずさわってきました。海外のアロマの文献などもチェックしています。

参考文献:
「アロマテラピーのための84の精油」ワンダ・セラー著 フレグランスジャーナル社
「精油の安全性ガイド(上巻、下巻)」ロバート・ティスランド著 フレグランスジャーナル社
「アロマテラピー事典」パトリシア・デービス著 フレグランスジャーナル社
「エッセンシャルオイル総覧2007」三上杏平著 フレグランスジャーナル社
「アロマテラピー検定テキスト(1級、2級)」鳥居鎮夫監修 社団法人日本アロマ環境協会
「アロマテラピーの事典」林真一郎著 東京堂出版
「キャリアオイル事典」レン・プライス著 東京堂出版
「アロマテラピー図鑑」佐々木薫監修 主婦の友社
「女性によく効くアロマセラピー」鮫島浩二著 主婦の友社
「アロマテラピーの事典」篠原直子著 成美堂出版
「はじめてのアロマテラピー」佐々木薫監修 池田書店
「はじめる、楽しむ アロマテラピー」石原裕子監修 永岡書店
「アロマテラピーバイブル」塩屋紹子監修 成美堂出版

アロマテラピーは、病気の治療を目的とした医療行為ではありません。また、当サイトの情報は、精油の医学的な効能、効果を保証するものでもありません。精油を使用する際には、製品についての注意事項をよく読み、自己責任の下、正しくお使い下さい。妊娠中の方、病気のある方、健康状態のすぐれない方は、必ず事前に医師にご相談下さい。 なお、一般的な呼称に合わせて、エッセンシャルオイル(精油)をアロマオイルと表記する場合もあります。

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